うつ病みの日々のあれこれ

うつ病みが日々のあれこれを綴ります

るきさんの時代と今

高野文子先生が'80年代末から'90年代初めにかけて「Hanako」に連載していた「るきさん」。

るきさん 高野文子

バブル絶頂期から崩壊し始めたころの世相が見えるので興味深い。

主人公るきさんと友達のえっちゃんはおそらく20代後半の女性、「Hanako」の購読層に相当する。えっちゃんはその頃らしく流行に敏感で消費意欲旺盛、「Hanako」購読層に近い。一方のるきさんは、流行には疎く倹約家でいたってマイペース、購読層とは正反対の存在だ。

るきさんは、在宅で医療事務の仕事をしている。1週間で一月分の仕事を済ませて、あとは図書館に通ったり趣味の切手収集をしたり自由に暮らしている。えっちゃんは規模の大きくない会社で事務職をしている。

その当時は、医療事務の在宅ワークで(倹約しているが)当たり前の生活ができていた。今ではるきさんと同じように働いても暮らせるだけの収入は得られないだろう。

またえっちゃんにしても、規模の大きくない企業で、「働いているふり」をしていて、毎月の収入をすべて好きなものを買うのに使ってしまう。今であれば、「働いているふり」の従業員なら真っ先に首を切られてしまうだろうし、そうでなくても好きなことに消費できるほどの収入を得るのは難しく、あるいは先行き不安で消費どころではないだろう。

その頃は、楽に働いてたくさんの収入が得られた時代だった。将来に不安を感じなくても生きられる時代だった。

単行本の終りの方で、ボーナスが減った、不景気なのよね、とえっちゃんが漏らすシーンがある。ちょうどバブルが崩壊した時期、華やかだった時代の終わりだ。

新装版巻末に、番外編として10年後の2人の様子が描かれてある。消費好きだったえっちゃんもすっかり、、、詳細は単行本を読んでほしい。

この30年の間に、当たり前の暮らしを望んでもできなくなってしまった。生きるていることが報われない時代になってしまった。

この30年間でこの国の悪しきところが次々と顕在化したはずだ。だが、私が悲観的にならざるを得ないのは、それら悪しきところを正すどころか見て見ぬふりを貫いている人たちがたくさん居座っているからだ。

 

以上。2022.06.16